アブダクション

 2025/8/3の「ロイヤルペイダート6」にて、栽培の時間で披露したコントです。
とはいえ、本番はふたりともちょっとずつ飛ばしてしまい、少し違う流れになっていたはず。
観ていただいた方、すみません。

 人前でやってみてようやく「なにごとも起こらない時間がちょっと長すぎたか」と気がついたのでした。
ここの感覚を鍛えるためにも、もう少しライブでネタやりたいんですが……しんどい思いになることも多いので……。

(念のため補足しますが、ロイヤルペイダートは居心地のよいライブです。
近い年次の方だけでなくベテランの方もいらっしゃるライブなので、緩みきらずいられるのもありがたいところ。
主催の深町さん、ありがとうございます……!)


 作中では話題となる業界を(私自身の稼業であるところの)システム開発に限定していますが、他の場でもこのように思うときが、かなりある。もちろんお笑いでも。
ただ実際にはもっと変数が多い、しかもいじれないかいじりにくいか、なものが……。

 あと、「アブダクション」という語の、誘拐以外の用法にも少し絡めた内容にしたかったのですが、単純な技量不足で諦めました。



【登場人物】
宇宙人(吉澤): インタビュー形式で地球人の生態調査を行っているため、姿を地球人に寄せている。
地球人(藤田): 想定では30代前半女性、あまりイケイケじゃないIT企業のシステム開発者。
(↑この時点でかなり私自身)


【台本】
宇宙船の一室。
中央に椅子が二脚だけ置かれている。

(明転。宇宙人が、スマホのような端末で神妙な顔つきで通話している。
やや離れたところに地球人が座っている。)

宇宙人: はい、こちらサンプル担当のピピ……吉澤です。
はい。ええ、無事に地球人のサンプルを一体、確保しました。
……いえ、それが、サンプル採取のためにいくつか質問をしていたら、急に身の上話が始まってしまいまして。……愚痴?というものらしく、なかなか止まらなくて。
ええ。……もう少し動向を観察し、生態データを収集してから、改めて報告します。はい、失礼します。

(宇宙人、通話を終えて地球人の方へと戻る。気まずそうに会釈する)

宇宙人: すみません、少し席を外しておりました。

地球人: (椅子に深くもたれかかったまま、虚空を見つめて)いいよ、別に。こっちも休憩できて助かったし。
……っていうかさ、もういっそ殺してくれない?

宇宙人: えっ。

地球人: あの会社に戻るくらいなら、ここで解剖されて死んだほうがマシ。
どうせやるんでしょ、そういうのも。映画で見たもん。エイリアンが人間をこう、ぐちゃーって。

宇宙人: (心外そうな顔で)そ、それは偏見です!我々はあくまで知的生命体の生態を調査しているだけで、そのような野蛮な行為は……。
それに、あなたの体を切り開いたところで、出てくるのは内臓だけでしょう?僕らが知りたいのはそういうものじゃ、ないんです。

地球人: ……あ、そう。悪かったね、野蛮な地球人で。
で、どこまで話したっけ。

宇宙人: ええと、「特に大規模なシステム開発において、開発者たちは……」

地球人: ああ、そうそう! あのね、私たちみたいなシステム開発を生業にするような人間って、ちょっと探究心が強いというか、目の前の問題を放っておけない性質なのよ。
バグを解決できたら「よっしゃ!」ってなるし、複雑な仕様を実装できたら脳汁ドバドバなわけ。

宇宙人: (真剣な顔でメモを取りながら)のうじる……。

地球人: で!プロジェクトをまとめる人達はそんな私達のことを分かっていて、限界まで利用し尽くそうとしてくる!
「こいつらは放っておいても、好奇心のまま仕事する」って。だから昼も夜もないくらい仕事し続けないといけないほどの、無茶な要求を乗っけてくるのよね。「君の成長のためだ」とか言いながら!
ただ、こっちにも好きでやってる部分だってあるから断りきれない。
こうしてデスマーチが完成するというわけ。

宇宙人: (相槌を打ちながらメモ) ですまーち……。なるほど……それは大変ですね。

地球人: でしょ!? 本当は「こんなのおかしい!」って、働いている私達自身が声を上げるべきなのよ。「労働環境を改善しろ!」って。
でもね、日々の業務でエネルギーを全部吸い取られて、家に帰ったらもうクタクタ。なにか、実効的なことをする気力も、体力も残ってない。
……いや、ダメだ!ここで諦めたら、私たちが大変なのはもちろん、次の世代だって同じ目に遭う!
でも、動けない……。

(地球人、ひとしきり語り終え、はあ、と大きなため息をつく。しばしの沈黙)

宇宙人: ……お話は、終わりましたか?

地球人: ……ええ、まあ、いったんは。

宇宙人: (少し申し訳なさそうに)そうですか。ありがとうございます。
あの、大変恐縮なのですが……僕、地球社会にまだまだ疎くて、今のお話も正直、ほとんど理解できませんでした。
でも、なんだかすごく大変だということは伝わりました。

地球人: (宇宙人をじろり、と見ながら)あんた……地球で、いや、特に日本で、めちゃくちゃ重宝されそうね。

宇宙人: そうなんですか?

地球人: 「内容はよく分からないけど、大変そうですね」って、相手の話に深入りはしないでおきながら、相手が求める反応だけは的確に出せる人間。 あんたみたいな人間が一定数いるから、組織は根本的な問題から目をそらしたまま、なんとなく維持されてしまうのよねえ。

宇宙人: (少し嬉しそうに)そうでしたか。お役に立てたのなら何よりです。

地球人: 褒めてないんだけどなあ。

(地球人、がっくりとする。宇宙人は何かを納得したように頷いている)

宇宙人: でも、あなたのおかげでよく分かりました。
地球人の生産性が我々の星に比べて著しく低い理由は、劣悪な労働環境にあったのですね。

地球人: え?

宇宙人: はい。僕たちの星では、いかなる労働も一日3時間までと法で定められています。
それ以上は脳機能に不可逆なダメージを与えるという科学的根拠があるので。

地球人: ……はぁ!? 3時間!?天国……午前中に帰れる……。

宇宙人: ですから、あなたをサンプルとして分析し、地球人がいかにしてこの過酷な環境を生き延びているのか、その驚異的な生命力を研究しようと……。

地球人: やっぱ実験動物扱いなんだ。

宇宙人: まあまあ。
そこで、ご提案があります。このままでは地球社会が非効率的で、そこに生きる人々が不幸なだけです。
僕も僕で研究者だからあなたに近いところがあるのでしょう、問題を認識しておきながら放っておくことは、なかなか心苦しい。
ですので……僕、あなたの会社へ行きます。

地球人: ……は?

宇宙人: 僕が「聞き上手で物分かりのいい新人」として潜入し、労働環境改善のコンサルティングを行います。
手始めに、あなたの会社の社長からじっくりお話をうかがって、根本的な問題を洗い出しましょう。

地球人: 話が急に……手に負えない! っていうかうちの社長、宇宙人の常識が通用する相手じゃないから!もっとヤバいから!

宇宙人: 大丈夫です。僕、話を聞くのは得意みたいなので。

(自信に満ちた、純粋な目で微笑む宇宙人。地球人は頭をあっけにとられている)

それに、もし3時間でケリがつかなさそうであれば、この「認識改変薬」を飲み物に混ぜて……。

(ポケットから怪しげな食品を出す(本番ではチューブに入ったはちみつを使用))

地球人: ……いや、そこは話し合いだけで解決してよ!

(暗転)